安全地帯から抜け出せないランナー

「足に違和感があるから」

 

チームで一人だけランニング足袋を履かず

普通のランニングシューズを履いている田中に

監督の鈴木がその理由を聞いてみたら、そう答えた。

 

「チームでランニング足袋を履いて練習する」

彼ら自身が決めたこと。

 

県高校駅伝優勝を目標に掲げ

その目標を達成するために何をしなければならないのか?

 

普通のことをやっていて、勝てるはずがない。

普通のことではない、何かヤバいことをやらなければ

昨年の県高校駅伝で先頭から10分以上も離されて6位だった

そんなチームが優勝なんてできるはずがない。

 

だから「チームでランニング足袋を履いて練習する」

彼らがこれをチームの約束事として決めた。

それを田中もチームの一員として異論なく受け入れた、はずだった。

 

彼はチームの中で一番いい5000mのタイムを持っている。

しかしそのタイムは、県高校駅伝の優勝チームの中に入れば

メンバーに入れるか入れないかのレベル。

 

ただ、チームの中ではそんな走力でも優越感に浸れる。

彼はずっと、安全地帯の中だ。

 

エースがそんな調子では

チームの目標達成は間違いなくありえない。

 

他に頑張っているチームメイトがいる。

 

彼の今の「姿勢」が

目標達成をどんどん遠ざけていることに気づいてもらわなければいけない。

 

鈴木が彼を呼び

「ランニング足袋を履くのはチームの約束事じゃなかったのか?」

と詰め寄る。

 

彼は「足に違和感があったので」と返す。

 

「その違和感の原因は何だかわかってるのか?

足に違和感があるってことは、何か問題があるからだろう?

その問題をいつも棚上げして、ごまかすから

他校の選手との戦いにも、いつもへっぴり腰になる。

こないだの県高校総体で気づいたことだろう?

もう忘れたのか?

 

君はいつも安全地帯の中で、ぬるーいことしかできない。

そんなことで、県高校駅伝優勝なんてできると思ってるの?

 

他の高校は、うちよりももっとハードな練習してる。

それと同じことやっても差は縮まらないのに

それどころか、何の工夫もなく

安全地帯でぬるいことやってても勝てるはずがないだろう?

 

安全地帯に籠っちゃダメなんだよ。

安全地帯から出て、自分にとって不都合な環境に

身を置く覚悟がないと

圧倒的な成果は出せないんだから。

 

失敗を繰り返す人の共通点を知ってるか?

ひとつ、直視しない。

ふたつ、後回しにする。

みっつ、何かのせいにする。

よっつ、忘れようとする。

最後に、いつつ、その結果、繰り返すんだよ。

 

君はその典型だと思わないか?

足が痛くなったことを「直視」してないだろう?

で、その改善を「後回し」にしてる。

そして、足が痛くなったのを「足袋のせい」にしてる。

だからシューズを履いて「忘れよう」とする。

結果、繰り返す。

 

君はその姿勢が変わらない限り

これからも望む結果は得られないよ。

 

なんでもな、物事が上手になるのは

フィードバックを繰り返して洗練するからよ。

勉強だって、テストして、できないところがあったら

その時は嫌な思いをするけど

できないところを改善しようって工夫するから

次、できるようになるだろう?それと同じ。

 

走ってて足が痛くなるのは誰だって嫌だよ。

だけど

君にとっての不その都合なフィードバックがあるからこそ

君は成長できるんだよ。

 

ランニング足袋を履くのは何のためよ?

自分の弱点を洗い出すためだろう?

そして、走りを磨いて磨いて、磨きまくって

その上にハードな練習をしていくことが

君たちみんなが望んでる成果への近道だってことは

いつもミーティングで確認してるからわかってるだろうけど

現実、君の行動は、目標達成に全くつながってない。

 

ランニング足袋履くから速くなるわけじゃないんだよ。

ランニング足袋履いて、自分の弱点と向き合って

その弱点を克服することに集中することで

いつの間にか目標の方から君に近づいてくるんだから。

 

結果にフォーカスするな。

全力でやることにフォーカスしろ。

安全地帯から、君自身の意志で抜け出せ。」

 

田中は不貞腐れた様子で練習に入った。

 

 

次の日、田中はランニング足袋で練習場所に現れた。

 

その日、足が痛いとは一言も言わない。

もともと彼は故障が多い。

だからこそ、護りに入ってしまうことを

鈴木も理解している。

 

しかし、彼がこの後、高校を卒業して先の進路で

「痛み」に遭遇することを避けることは間違いなくできない。

仕事、人間関係など、色んな場面で

その都度「痛み」と向き合わなければならない。

 

だからこそ、その「痛み」にどう向き合うかということを

今のうちに身につけてもらいたいと鈴木は考えている。

 

ランニング足袋で走ることは

「走る姿勢」を磨くだけでなく

「人として生きていくための姿勢」を磨くことに繋がる。

 

故障は失敗ではない。

成果を手に入れるための重要なステップだ。

 

だから鈴木は、一般的な高校陸上の監督のように

故障したからと言って決して生徒を叱ったりしない。

 

故障した生徒を叱るのは

監督自身の無能さを棚上げしてるに過ぎないと考えているからだ。

 

故障をしてしまうのは、その人の問題ではない。

そのシステムの問題である。

 

 

監督自身が生徒のウィークポイントを修正してあげれるのであれば

 

そのシステムでよい。

 

監督自身ではそれができないのであれば

それができる人をアウトソーシングし

そのシステムを作り上げればよい。

 

しかし、アウトソーシングする場合でも

監督は何も知らなくてもいいとは、彼は考えていない。

 

田中をはじめとして、生徒が成果を出すことができないのは

鈴木にとっての「痛み」なのだ。

 

だからこそ彼は、貪欲に学び

生徒とコミュニケーションをとる。

 

そうやって、自分にとって不都合な状況に身を置いて

生徒と一緒に成長しようとしている。

 

秋に向けて、チームは「安全地帯」を抜け出すことができるだろうか?

「安全地帯」を抜け出した先はもちろん

「安全ではない地帯」つまりリスクがある世界だ。

 

しかし、彼らが望むのはハイリターン。

であれば、リスクは承知の上。

もしかしたら、チーム全員が故障するという

考えてもみたくない結果も、ないわけではない。

 

しかし、結果にフォーカスして縮こまるより

今を全力でやることにフォーカスする。

 

果たして秋には、どんな成果が待っているだろうか?

 

 

 


ランニング足袋を履いて故障するなんて

やっぱりしたくはないですよね?

 

であれば「故障する」という結果の「その手前」で

やることがあります。

 

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